10月の薬膳酒話スペシャル
「大人の遠足2018秋 京都・伊根リベンジ」
舟屋の里、向井酒造杜氏・久仁子さんを囲む夕べ
2018年10月13〜14日開催レポート
7月に開催予定でしたが悪天候により中止した京都・伊根への大人の遠足。10月は、心地よい秋晴れでの開催となりました。宮津駅に集合してからまずは車で約40分、京丹後市弥栄町にある「Tango Organic Farmer’s Market・キコリ谷テラス」さんにお邪魔してランチをいただきました。
木と土と石でできたお店はとてもかわいらしく、素朴な土壁がとても居心地のよい空間を作っています。店内には地元のオーガニック野菜や野菜、調味料も販売していて、食に興味のある人たちの集いの場となっているそうです。秋の野菜を使ったランチもおいしかった!端境期で旬の野菜が少なくて…というお話でしたが、ニンジンの葉やクレソンなど上手に利用されていてとても勉強になりました。裏庭にはテントがあり、ソファとラグでまったりコーヒータイムも楽しみました。ご主人と奥様はこの土地へ関東から移住されたそうで、地元の方だけでなく、東京から来た私たちの心と体もすっかり癒してくださいました。
ランチの後は、宮津に戻り、富士酢で有名な「飯尾醸造」さんへ。社長さんの案内で酢の蔵を見学しました。蔵に近づくとぷーんと香る甘酸っぱい香りが広がっています。こちらでは、50年前から農薬を使わない原料米を自分たちで育てているとのこと。美しい棚田は昔のままの形のため機械が入らない、高齢化で米作りができない契約農家さんから棚田を借り受けて、すべての作業を人の手で行っているそうです。毎年、田植えと稲刈り体験会を開き、蔵人とたくさんのサポーターの方とひとつひとつ手作業で米を収穫。酢にはこの新米のみを使って毎年冬に杜氏が酒蔵で「酢もともろみ(酒)」を仕込むそうです。この作業はほぼ日本酒の工程と同じ。そこからお酢の蔵に移して昔ながらの「静置発酵」により約3カ月の発酵、その後約10カ月の熟成を経て、おいしくまるみのあるお酢に仕上げていく。
昔ながら、手しごと、など簡単に言葉にできない時間と手間と技、そして情熱のいる酢造りのお話を聞きました。見学の後は、お酢の試飲。なんと16種類の飲み比べ。初めての体験でしたが、徐々に体が活性化されていくような気がしました。
お酢蔵からは天橋立など海を眺めながら再びドライブ、伊根を目指します。230軒の舟屋、130軒の土蔵などが軒を連ねる伊根湾。学生時代を最初に何度も訪れている場所ですが、この海にぴったりとはり付いたようにゆるくまるく穏やかな風景を見ると深い呼吸になります。黄昏どきから日没までのドライブで、今夜のお宿「地魚料理よしむら屋」さんに到着しました。こちらに向井酒造の杜氏向井久仁子さんを迎えて、いよいよ宴会です。
両肩に何本もの酒瓶を入れた袋を担いで、久仁子さんがやってきました。地元漁師さんでもあるよしむら屋のご主人がテーブルに並びきれないほどの魚料理を振る舞ってくれます。地元の酒と魚での宴は圧巻です。さばのへしこ、今からが旬のいかをはじめ、のどぐろやカワハギなど20種類以上の海の幸と、今や向井酒造の代名詞である赤い古代米を使った「伊根満開」、「京の春」は仕込みの違う純米酒を数種類、常温や燗酒にして楽しみました。いつも明るく元気な久仁子さん、酒づくり、海外での試飲会の話、私との出会いのころなど、話は尽きません。刺身、煮付け、天ぷら、お寿司、唐揚げと地魚尽くしの料理を平らげてみなさん満足げにお部屋に引き上げました。明日朝は、伊根の漁港での「魚選り」と「浜買い」へ、久仁子さんに連れて行ってもらう約束でお開きです。
早朝6時半の町内無線。伊根浦漁業からの漁の様子が伝えられる放送で目が覚めました。が、全く聞き取れず。この放送から30分後くらいには、港に定置網漁を終えた船が戻ってくるということ。漁師さんやその奥さんたちが戻ってきた船から魚を種類やサイズごとに選り分けていきます。こちらが「魚選り」。私たちもさっそく出かけます。伊根には魚屋さんはないので、地元の人は家庭用や飲食店の仕入れとしてバケツを持って集まってきます。これが「浜買い」。まさにとれたての魚がピチピチと跳ね上がっている現場です。欲しい魚を種類関係なく自分ですくい1つのバケツに入れて、会計係のところに持っていきます。魚は種類ごとにキロいくらの価格がボードに書かれているので、スケールに載せながら会計していくシステム。ベテラン奥さんじゃないと尻込みしてしまいそうだけど、体験してみたいな。
朝食の後宿を後にして、地元の漁師さんが自分の船で案内してくれる伊根湾巡り「海上タクシー」に乗船しました。「成洋丸」の船長さんはとってもお話上手で、笑いっぱなしの30分でした。三方を山に囲まれ、外海に面したところにある青島が防波堤の役目を果たしてくれているため、年中穏やかな伊根湾。潮の干満の差も30cmほどしかないそう。だからこそ昔から残る舟屋の歴史があるのです。1階は船のガレージ、2階は道具や魚を干す場、隣に蔵、道を挟んで山側は母屋という暮らしのスタイル。現在は舟屋を改装してお宿やカフェなどにもなっているが保存地区に指定されているため、ノスタルジックな風景は変わらない。「寅さん」「釣りバカ日誌」「ええにょぼ」など映画やドラマ、さまざまな旅番組に登場する伊根はやっぱり海上からも眺めなければ。かつて私もシーカヤックでこの湾を漕ぎました。海から見ることで感じられる暮らしがたくさんありますよ。
旅の最後は「向井酒造」さんへ。伊根唯一の造り酒屋、向井酒造の蔵は海上からも行けますが、本日は陸路で。赤米の酒粕を使ったアイスクリームなどもあり、国内外のお客さまがひっきりなしに訪れていました。皆さんは試飲を楽しみ、私は横目で耐えつつ、酒蔵の風情を楽しみました。久仁子さん、久仁子さんママ、社長である弟さん、お邪魔しました。購入したお酒で、旅の余韻を楽しみますね。その後は、素敵な舟屋でお昼をいただき、しばしぼんやりと海のきらめきと伊根の空気を味わい、一路宮津駅へ。大人の遠足はここまで。今回もたくさんの方のご協力とご縁で楽しく美味しい旅ができました。久仁子さんのお人柄あっての今回の旅の成功です。本当にありがとうございました。(伊嶋まどか)
向井酒造
Tango Organic Farmer’s Market・キコリ谷テラス
https://www.facebook.com/TangoOrganicFarmersMarket/
飯尾醸造
地魚料理よしむら屋/海上タクシー「成洋丸」